THINK FUTURE.アスリートの「動き」とその「未来」をデザインした、le coq sportif Cycle 2017 SS Collectionが完成。

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THINK FUTURE.

裸よりも心地よく、観るものをワクワクさせる――。
未来のレース用サイクリングウェアを想像する。

サイクルロードレースの世界において、サイクリングウェアが果たす役割は小さくない。
いや、選手がパフォーマンスを発揮する上で無視することのできない存在と言って間違いないだろう。
しかし、この数十年の間で、サイクリングウェアはどれだけ進化したのか。
もちろん、素材もパターンも変化してきた。
しかし、もっと根本的なところで変わることはできないだろうか――。
そんなテーマに対して、世界を知るレーサーとデザイナーが向き合った結果とは。

TEXT BY GEN SUGAI / PHOTOGRAPHS BY SHU TOKONAMI / ILLUSTRATION BY TERUKAZU MATORI

写真右:宮澤崇史(みやざわ・たかし)/元 自転車プロロードレーサー(2014年引退)。10代から日本、フランス、イタリア等でレース活動を行う。23歳の時に母親に肝臓を提供するという一大転機を迎えながら、その後もレーサーとして活躍を続けた。2008年、北京五輪男子ロードレース日本代表選手に選出。2010年全日本選手権ロードレースを制した。2012〜2013年はチーム・サクソバンクに在籍。2014年に引退し、翌年から湘南ベルマーレサイクルロードチームの監督を務める。

左:須貝弦(すがい・げん)/ライター・編集者。1980年台後半の初期のマウンテンバイクブームが、スポーツ自転車との出会い。同時期、NHKで放送されていたツール・ド・フランスを通じてサイクルロードレースを知り、ロードバイクへの憧れも抱いた。2001年、男性ファッション誌の取材でいわゆる「プロショップ」を訪れたことで、一時期途絶えていた自転車熱が復活。雑誌や企業のオウンドメディア作りに関わる一方、自らも自転車ブログメディアを運営する。

中央:伊藤良太(いとう・りょうた)/ルコックスポルティフ チーフデザイナー。日本におけるルコック製品を、機能からビジュアルまで統括する。サイクリングウェアに関しては、自らツール・ド・フランスの現場まで足を運びリアルな熱気を感じ取りつつ、日本の風土も考慮した製品作りに取り組んでいる。自身もサイクルロードレース観戦やクロスバイクでのサイクリングを楽しみ、ミニベロでのアーバンサイクリングにも興味が。ジャンルの垣根を超えて自転車を楽しむ。

着ているほうが裸より快適になってほしい

 未来のサイクリングウェアを考える。しかも、レースを前提としたものを――言うのは簡単だが、実に難しいテーマである。集まった3人は正直なところ困惑していたわけだが、それでも筆者はどこか楽観視しているところがあった。なぜなら、ひとりは日本と世界でプロ選手として活躍した宮澤崇史さんであり、もうひとりはルコックスポルティフのチーフデザイナー、伊藤良太。このふたりなら、会話からきっと未来のサイクリングウェアに対するヒントを出してくれるだろう。
 「この5年くらいの間に、サイクリングウェアの機能は大きく変化したと思いますね。特に違うのは素材と機能です」と語るのは、宮澤さんだ。
 「昔のジャージというのは、外が寒ければライダーも寒い、暑ければ暑い――というのが当たり前の世界でした。しかし、今のサイクリングウェアはライダーを守ることができます」
 冬物のジャージであればモコモコと着込むが、汗をかいてしまうと結局カラダが冷えるのがオチ。雨が降ってレインジャケットを着れば、湿度の高さに泣かされる。パッドの出来が悪ければ股ずれに苦しむ。それらは「当たり前」「仕方がない」として諦められていた時代があった。しかし今では防寒、防風、防水、UVカット、落車した際にケガをしにくいものなど、さまざまな機能が素材の進化によってもたらされるようになった。しかし、いかにも“守られている”という感じがするのが良いのかというと、そういうことではないようだ。
 「私が好きなアイウェアはレンズが特徴的で、裸眼より快適というのをウリにしているんですね。サイクリングウェアに求められるのも、同じことだと思います。人間、何もないことが自由と思われるけど、そうではなくて。着ているんだけど、裸でいるくらいの感覚というか、むしろ身につけているほうが裸より心地よいというところまで到達してほしいですね」
 素材や機能などを含めたトータルでのデザインを統括する伊藤は、そんな宮澤さんの話に真剣に聞き入っている。

選手からも観衆からも「わかりやすい」ウェアを

 宮澤さんは選手として様々なメーカー、そして様々なデザインのサイクリングウェアを着てきた。選手である以上、好きなものを着れば良い一般のサイクリストとは事情が異なる。しかし宮澤さんには、他の選手とは少し違った経験があった。
 「梅丹本舗・GDRに在籍していたとき、チームジャージのデザインをしたんです。ピンクのカモフラージュを大胆にあしらったデザインでした。他に似ているものがないジャージでしたが、観る人からチームに対するイメージを持ってもらいやすいこと、そしてプロトンの中で目立つジャージであることが大事だと考えました」
 テレビでサイクルロードレースを観戦していると、上空からの映像が多く、選手ひとりひとりは小さく映っている。バイクカメラからの映像であっても、集団の中にいる選手は判別がつけにくい。沿道で観戦しているならなおさらのことであろう。だからこそ、マイヨ・ジョーヌをはじめとする各賞ジャージは、一目見てわかるデザインになっているわけだ。それと同じように、チームのジャージも一目見てわかったほうが観客にはわかりやすい。そして選手にとっても、チームメートがどこにいるかわかりやすいに越したことはない。
 見やすさという点では、近年はウェアの肩や背中に選手の名前を入れるという試みを行うチームもある。とくに背中に選手名を入れたチームは、所属選手が逃げ集団に乗った際などに、後ろ姿でもすぐに誰だかわかるから面白い。
 そして私たち3人は、Webブラウザで「Tumblr」や「Instagram」を開いて、様々なチームジャージのデザインを眺めていた。
 宮澤さんは「ここ数年で、サイクリングウェアの文化は明らかに変わりましたよね。アマチュアチームのジャージでもおしゃれなものが増えたし、ドクロのような昔では考えられないようなモチーフも使われるようになってきています」と話す。
 また、サイクリングウェアもファッションの流行とは無縁でなくなってきた(逆にえば以前は少しファッションとは遠いところにあった)とも言える。個性的なものが増えてきた一方で、例えばカモフラージュ、伝統色、伝統アートをモチーフにするといった手法が使い古され、似たものが増えているのも事実だ。それでもプリント技術の圧倒的な進化によって、サイクリングウェアのデザインは百花繚乱の時代を迎えた。
 究極は、紙のような薄くて自在なディスプレイデバイス「電子ペーパー」の応用ではないだろうか。すでに電子ペーパーを使ってハンドバッグのデザインを変化させるというコンセプトモデルは出現しているので、伸縮性や通気性等の機能と融合することができれば、ディスプレイを着る時代も近いかもしれない――などと、妄想を交えつつ話を繰り広げるわけだが、宮澤さんと筆者は「では、あとは伊藤さんがまとめてくれるということで」と、無責任な締めくくりをするのであった。

デザイナーが出した「未来のサイクリングウェア」に対する答えとは?

 そんな無茶な宿題を出された伊藤の答えは、2週間ほで私たちのもとに届いた。そのイラストは確かにサイクリングェアだが、同時に「デバイス」であることも明らかだった。伊藤は言う。
 「観客の視点で知りたいことはなんだろうかと考えた時に、選手が今どういう状態か――例えば速度やケイデンスはもちろん、心拍数や乳酸値といったデータがすべてグラフィカルに見えたらおもしいのではないかと思い浮かびました。そこからイメージを発展させて、選手のデータをウェアに搭載されている人口知能が把握し、体調をリアルタイムに管理・表示するAIウェアとしました」
 今、データと通信を駆使してスポーツをよりリアルタイムに、よりグラフィカルに見せるという試みは様々な競技で行われている。その流れを、ウェアをデバイスと捉えることでさらに推し進めようというわけだ。
 「そして、電子ペーパーを使用して色が変わるバッグのように、スマホや手元の操作で簡単にウェアのカラーを変えることができ、メーカーロゴやスポンサーロゴなどもスキャンすれば様々なチームウェアや各賞ジャージに変化します。これらの機能は、宮澤さんからお聞きしたウェアに求められる着心地や機能は当然満たしているという前提です」
 もちろん、世の中に「着るセンサー」や「着るディスプレイ」という発想は存在するのだが、それがサイクリングのようなスポーツウェアで成立するかどうかがキーとなるだろう。例えば現在はスポンサーロゴが入ったり、ゼッケンが貼られていたりするスペースから始めれば、そう遠くない未来に実現するはず。もちろんそれが、全身に渡って実現するようになれば言うことなしだ。選手にとっては丸裸にされるような気分かもしれないが、それが「裸よりも心地よい着用感」であれば、きっと受け入れられるに違いない。

このコンセプト・ウェアのデザインは、プロダクトに落とし込む「未来像」の選択が重要なポイントになりました。
素材や人間工学に基づいたデザインの進化によりレースに必要なウェア機能は磨き上げられ続け、現在は成熟期を迎えていると言えます。そんな状況下でさらなるスピードの獲得に繋がる「未来のウェア」を提案すべきなのか? それともまったく視点を変えるべきなのか? さまざまな思いを巡らせた結果、競技者のパフォーマンスを向上させる未来ではなく、ファンや自転車競技に興味を抱かない人々に対し、レースをより分かりやすく、そしてエキサイトさせる機能(未来)を選択しました。
見る人にとってレースが、そして競技者がどのような「状態」にあるかが分かることで、新たな臨場感の創出と醍醐味が生まれるはずです。消費カロリーや乳酸値の状態など、様々なインフォメーションを映し出すこのコンセプト・ウェアは、勝敗に直結させた従来型のウェアデザインのほかに、GUIをはじめとするインフォメーション・デザインが重要になります。そういったことからこのコンセプト・ウェアは僕の領分から大きく越境したものでもあります。この未来のウェアはレースや競技者、観客だけでなく、ウェアデザインとそれに携わるデザイナーの未来も映し出し、向かうべきベクトルを指し示したものにもなったと思います。(伊藤)

CATALOG
2017 SS CYCLE COLLECTION

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